【原文・現代語訳】東下り(『伊勢物語』より)
(1)昔、男ありけり。…… 原文 ①昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり。②もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり。③道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。④三河の国八橋...
(3)なほ行き行きて、武蔵の国と下つ総の国との中に、……
① なほ行き行きて、武蔵の国と下つ総の国との中に、いと大きなる河あり。
さらに進んで行って、武蔵の国と下総の国との間に、たいそう大きな川がある。
なほ=[副]
行き行き=[動]カ四「行き行く」用
て=[接助]単純な接続
武蔵の国=[名]
と=[格助]並列
下つ総の国=[名]
と=[格助]並列
の=[格助]連体修飾格
中=[名]
に=[格助]場所
いと=[副]
大きなる=[形動]ナリ「大きなり」体
河=[名]
あり=[動]ラ変「あり」止
行き行き=[動]カ四「行き行く」用
て=[接助]単純な接続
武蔵の国=[名]
と=[格助]並列
下つ総の国=[名]
と=[格助]並列
の=[格助]連体修飾格
中=[名]
に=[格助]場所
いと=[副]
大きなる=[形動]ナリ「大きなり」体
河=[名]
あり=[動]ラ変「あり」止
② それをすみだ河といふ。
それを隅田川という。
それ=[名]
を=[格助]動作の対象
すみだ河=[名]
と=[格助]引用
いふ=[動]ハ四「いふ」止
を=[格助]動作の対象
すみだ河=[名]
と=[格助]引用
いふ=[動]ハ四「いふ」止
③ その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、
その川のほとりに〔一行は〕集まって座って、〔旅を〕振り返ると、この上なく遠くに来たものだなあと互いに嘆きあっていると、
その=[連語]
河=[名]
の=[格助]連体修飾格
ほとり=[名]
に=[格助]場所
群れゐ=[動]ワ上一「群れゐる」用
て=[接助]単純な接続
思ひやれ=[動]ラ四「思ひやる」已
ば=[接助]偶然条件
限りなく=[形]ク「限りなし」用
遠く=[形]ク「遠し」用
も=[係助]強意
来=[動]「来」用
に=[助動]完了「ぬ」用
ける=[助動]過去「けり」体
かな=[終助]詠嘆
と=[格助]引用
わびあへ=[動]ハ四「わびあふ」已
る=[助動]存続「り」体
に=[接助]単純な接続
河=[名]
の=[格助]連体修飾格
ほとり=[名]
に=[格助]場所
群れゐ=[動]ワ上一「群れゐる」用
て=[接助]単純な接続
思ひやれ=[動]ラ四「思ひやる」已
ば=[接助]偶然条件
限りなく=[形]ク「限りなし」用
遠く=[形]ク「遠し」用
も=[係助]強意
来=[動]「来」用
に=[助動]完了「ぬ」用
ける=[助動]過去「けり」体
かな=[終助]詠嘆
と=[格助]引用
わびあへ=[動]ハ四「わびあふ」已
る=[助動]存続「り」体
に=[接助]単純な接続
④ 渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
渡し守が、「早く舟に乗りなさい。日も暮れてしまう。」と言うので、〔一行は舟に〕乗って渡ろうとするが、
渡し守=[名]
はや=[副]
舟=[名]
に=[格助]動作の対象
乗れ=[動]ラ四「乗れ」令
日=[名]
も=[係助]同趣の一つ
暮れ=[動]ラ下二「暮る」用
ぬ=[助動]強意「ぬ」止
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
に=[接助]順接の確定条件
乗り=[動]ラ四「乗る」用
て=[接助]単純な接続
渡ら=[動]ラ四「渡る」未
む=[助動]意志「む」止
と=[格助]引用
する=[動]サ変「す」体
に=[接助]単純な接続
はや=[副]
舟=[名]
に=[格助]動作の対象
乗れ=[動]ラ四「乗れ」令
日=[名]
も=[係助]同趣の一つ
暮れ=[動]ラ下二「暮る」用
ぬ=[助動]強意「ぬ」止
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
に=[接助]順接の確定条件
乗り=[動]ラ四「乗る」用
て=[接助]単純な接続
渡ら=[動]ラ四「渡る」未
む=[助動]意志「む」止
と=[格助]引用
する=[動]サ変「す」体
に=[接助]単純な接続
⑤ みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
〔一行の〕人はみななんとなく悲しくて、〔それは〕都に思う人がないわけでもない〔からだ〕。
みな人=[名]
ものわびしく=[形]シク「ものわびし」用
て=[接助]単純な接続
京=[名]
に=[格助]場所
思ふ=[動]ハ四「思ふ」体
人=[名]
なき=[形]ク「なし」体
に=[助動]断定「なり」用
しも=[副]
あら=[動]ラ変「あり」未
ず=[助動]打消「ず」止
ものわびしく=[形]シク「ものわびし」用
て=[接助]単純な接続
京=[名]
に=[格助]場所
思ふ=[動]ハ四「思ふ」体
人=[名]
なき=[形]ク「なし」体
に=[助動]断定「なり」用
しも=[副]
あら=[動]ラ変「あり」未
ず=[助動]打消「ず」止
⑥ さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ、魚を食ふ。
ちょうどそのとき、白い鳥で嘴と脚とが赤く、鴫の大きさの鳥が、水の上で遊びながら、魚を食う。
さる=[連体]
折=[名]
しも=[副助]強意
白き=[形]ク「白し」体
鳥=[名]
の=[格助]同格
嘴=[名]
と=[格助]並列
脚=[名]
と=[格助]並列
赤き=[形]ク「赤し」体
鴫=[名]
の=[格助]連体修飾格
大きさ=[名]
なる=[助動]断定「なり」体
水=[名]
の=[格助]連体修飾格
上=[名]
に=[格助]場所
遊び=[動]バ四「遊ぶ」用
つつ=[接助]動作の並行
魚=[名]
を=[格助]動作の対象
食ふ=[動]ハ四「食ふ」止
折=[名]
しも=[副助]強意
白き=[形]ク「白し」体
鳥=[名]
の=[格助]同格
嘴=[名]
と=[格助]並列
脚=[名]
と=[格助]並列
赤き=[形]ク「赤し」体
鴫=[名]
の=[格助]連体修飾格
大きさ=[名]
なる=[助動]断定「なり」体
水=[名]
の=[格助]連体修飾格
上=[名]
に=[格助]場所
遊び=[動]バ四「遊ぶ」用
つつ=[接助]動作の並行
魚=[名]
を=[格助]動作の対象
食ふ=[動]ハ四「食ふ」止
⑦ 京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
都では見かけない鳥なので、人はみな〔何という鳥なのか〕わからない。
京=[名]
に=[格助]場所
は=[係助]主題の提示
見え=[動]ヤ下二「見ゆ」未
ぬ=[助動]打消「ず」体
鳥=[名]
なれ=[助動]断定「なり」已
ば=[接助]原因・理由
みな人=[名]
見知ら=[動]ラ四「見知る」未
ず=[助動]打消「ず」止
に=[格助]場所
は=[係助]主題の提示
見え=[動]ヤ下二「見ゆ」未
ぬ=[助動]打消「ず」体
鳥=[名]
なれ=[助動]断定「なり」已
ば=[接助]原因・理由
みな人=[名]
見知ら=[動]ラ四「見知る」未
ず=[助動]打消「ず」止
⑧ 渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
渡し守に尋ねると、「これは都鳥です。」と言うのを聞いて、
渡し守=[名]
に=[格助]動作の対象
問ひ=[動]ハ四「問ふ」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]偶然条件
これ=[名]
なむ=[係助]強意(結びの語:省略)
都鳥=[名]
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
を=[格助]動作の対象
聞き=[動]カ四「聞く」用
て=[接助]単純な接続
に=[格助]動作の対象
問ひ=[動]ハ四「問ふ」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]偶然条件
これ=[名]
なむ=[係助]強意(結びの語:省略)
都鳥=[名]
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
を=[格助]動作の対象
聞き=[動]カ四「聞く」用
て=[接助]単純な接続
⑨ 名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
〔都という言葉を〕名前として持っているならば、さあ尋ねよう都鳥よ。私が〔愛しく〕思う人は〔無事で〕いるかどうか
名=[名]
に=[格助]資格・地位
し=[副助]強意
負は=[動]ハ四「負ふ」未
ば=[接助]順接の仮定条件
いざ=[感動]
こと問は=[動]ハ四「こと問ふ」未
む=[助動]意志「む」止
都鳥=[名]
わが=[連語]
思ふ=[動]ハ四「思ふ」体
人=[名]
は=[係助]主題の提示
あり=[動]ラ変「あり」止
や=[係助]疑問
なし=[形]ク「なし」止
や=[係助]疑問
と=[格助]引用
に=[格助]資格・地位
し=[副助]強意
負は=[動]ハ四「負ふ」未
ば=[接助]順接の仮定条件
いざ=[感動]
こと問は=[動]ハ四「こと問ふ」未
む=[助動]意志「む」止
都鳥=[名]
わが=[連語]
思ふ=[動]ハ四「思ふ」体
人=[名]
は=[係助]主題の提示
あり=[動]ラ変「あり」止
や=[係助]疑問
なし=[形]ク「なし」止
や=[係助]疑問
と=[格助]引用
⑩ と詠めりければ、舟こぞりて泣きにけり。
と詠んだので、舟〔の人〕はみんな泣いてしまった。
と=[格助]引用
詠め=[動]マ四「詠む」已
り=[助動]完了「り」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因・理由
舟=[名]
こぞり=[動]ラ四「こぞる」用
て=[接助]単純な接続
泣き=[動]カ四「泣く」用
に=[助動]完了「ぬ」用
けり=[助動]過去「けり」止
詠め=[動]マ四「詠む」已
り=[助動]完了「り」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因・理由
舟=[名]
こぞり=[動]ラ四「こぞる」用
て=[接助]単純な接続
泣き=[動]カ四「泣く」用
に=[助動]完了「ぬ」用
けり=[助動]過去「けり」止