【原文・現代語訳】弓争ひ/競べ弓/競射(『大鏡』より)
(1)帥殿の、南の院にて、…… 原文 ①帥殿の、南の院にて、人々集めて弓あそばししに、この殿渡らせ給へれば、②思ひかけずあやしと、中の関白殿おぼし驚きて、いみじう饗応し申させ給うて、③下臈におはしませど、前に立て奉りて、まづ射させ奉らせ給ひ...
(1)帥殿の、南の院にて、……
① 帥殿の、南の院にて、人々集めて弓あそばししに、この殿渡らせ給へれば、
帥殿(=藤原伊周)が、南の院で人々を集めて弓の競射をなさったときに、この殿(=藤原道長)がいらっしゃったので、
帥殿=[名]
の=[格助]主格
南=[名]
の=[格助]連体修飾格
院=[名]
にて=[格助]場所
人々=[名]
集め=[動]マ下二「集む」用
て=[接助]単純な接続
弓=[名]
あそばし=[動]サ四「あそばす」用/あそばす=尊敬語(本)語り手から伊周へ
し=[助動]過去「き」体
に=[格助]時
この=[連語]
殿=[名]
渡ら=[動]ラ四「渡る」未
せ=[助動]尊敬「す」用/す=尊敬語(助動)語り手から道長へ
給へ=[動]ハ四「給ふ」已/給ふ=尊敬語(補)語り手から道長へ
れ=[助動]完了「り」已
ば=[接助]原因・理由
の=[格助]主格
南=[名]
の=[格助]連体修飾格
院=[名]
にて=[格助]場所
人々=[名]
集め=[動]マ下二「集む」用
て=[接助]単純な接続
弓=[名]
あそばし=[動]サ四「あそばす」用/あそばす=尊敬語(本)語り手から伊周へ
し=[助動]過去「き」体
に=[格助]時
この=[連語]
殿=[名]
渡ら=[動]ラ四「渡る」未
せ=[助動]尊敬「す」用/す=尊敬語(助動)語り手から道長へ
給へ=[動]ハ四「給ふ」已/給ふ=尊敬語(補)語り手から道長へ
れ=[助動]完了「り」已
ば=[接助]原因・理由
② 思ひかけずあやしと、中の関白殿おぼし驚きて、いみじう饗応し申させ給うて、
これは思いがけない不思議なことだと、中の関白殿(=藤原道隆)は驚きなさって、たいそう〔道長の〕機嫌をとり、もてなし申し上げなさって、
思ひかけ=[動]カ下二「思ひかく」未
ず=[助動]打消「ず」用
あやし=[形]シク「あやし」止
と=[格助]引用
中の関白殿=[名]
おぼし驚き=[動]カ四「おぼし驚く」用/おぼし驚く=尊敬語(本)語り手から道隆へ
て=[接助]単純な接続
いみじう=[形]シク「いみじ」用・ウ音便
饗応し=[動]サ変「饗応す」用
申さ=[動]サ四「申す」未/申す=謙譲語(補)語り手から道長へ
せ=[助動]尊敬「す」用/す=尊敬語(助動)語り手から道隆へ
給う=[動]ハ四「給ふ」用・ウ音便/給ふ=尊敬語(補)語り手から道隆へ
て=[接助]単純な接続
ず=[助動]打消「ず」用
あやし=[形]シク「あやし」止
と=[格助]引用
中の関白殿=[名]
おぼし驚き=[動]カ四「おぼし驚く」用/おぼし驚く=尊敬語(本)語り手から道隆へ
て=[接助]単純な接続
いみじう=[形]シク「いみじ」用・ウ音便
饗応し=[動]サ変「饗応す」用
申さ=[動]サ四「申す」未/申す=謙譲語(補)語り手から道長へ
せ=[助動]尊敬「す」用/す=尊敬語(助動)語り手から道隆へ
給う=[動]ハ四「給ふ」用・ウ音便/給ふ=尊敬語(補)語り手から道隆へ
て=[接助]単純な接続
③ 下臈におはしませど、前に立て奉りて、まづ射させ奉らせ給ひけるに、
〔道長は伊周よりも〕身分が低くいらっしゃったけれど、〔道長を〕先に立て申し上げて、最初に射させ申し上げなさったところ、
下臈=[名]
に=[助動]断定「なり」用
おはしませ=[動]サ四「おはします」已/おはします=尊敬語(補)語り手から道長へ
ど=[接助]逆接の確定条件
前=[名]
に=[格助]場所
立て=[動]タ下二「立つ」用
奉り=[動]ラ四「奉る」用/奉る=謙譲語(補)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
まづ=[副]
射=[動]ヤ上一「射る」未
させ=[助動]使役「さす」用
奉ら=[動]ラ四「奉る」未/奉る=謙譲語(補)語り手から道長へ
せ=[助動]尊敬「す」用/す=尊敬語(助動)語り手から道隆へ
給ひ=[動]ハ四「給ふ」用/給ふ=尊敬語(補)語り手から道隆へ
ける=[助動]過去「けり」体
に=[接助]単純な接続
に=[助動]断定「なり」用
おはしませ=[動]サ四「おはします」已/おはします=尊敬語(補)語り手から道長へ
ど=[接助]逆接の確定条件
前=[名]
に=[格助]場所
立て=[動]タ下二「立つ」用
奉り=[動]ラ四「奉る」用/奉る=謙譲語(補)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
まづ=[副]
射=[動]ヤ上一「射る」未
させ=[助動]使役「さす」用
奉ら=[動]ラ四「奉る」未/奉る=謙譲語(補)語り手から道長へ
せ=[助動]尊敬「す」用/す=尊敬語(助動)語り手から道隆へ
給ひ=[動]ハ四「給ふ」用/給ふ=尊敬語(補)語り手から道隆へ
ける=[助動]過去「けり」体
に=[接助]単純な接続
④ 帥殿の矢数いま二つ劣り給ひぬ。
帥殿(=伊周)の〔当たった〕矢の数があと二本〔道長に〕負けなさってしまった。
帥殿=[名]
の=[格助]連体修飾格
矢数=[名]
いま=[副]
二つ=[名]
劣り=[動]ラ四「劣る」用
給ひ=[動]ハ四「給ふ」用/給ふ=尊敬語(補)語り手から伊周へ
ぬ=[助動]完了「ぬ」止
の=[格助]連体修飾格
矢数=[名]
いま=[副]
二つ=[名]
劣り=[動]ラ四「劣る」用
給ひ=[動]ハ四「給ふ」用/給ふ=尊敬語(補)語り手から伊周へ
ぬ=[助動]完了「ぬ」止
⑤ 中の関白殿、また、御前に候ふ人々も、
中の関白殿(=道隆)も、また、御前にお仕えする人々も、
中の関白殿=[名]
また=[副]
御前=[名]
に=[格助]動作の対象
候ふ=[動]ハ四「候ふ」体/候ふ=謙譲語(本)語り手から道隆へ
人々=[名]
も=[係助]同趣の一つ
また=[副]
御前=[名]
に=[格助]動作の対象
候ふ=[動]ハ四「候ふ」体/候ふ=謙譲語(本)語り手から道隆へ
人々=[名]
も=[係助]同趣の一つ
⑥ 「いまふたたび延べさせ給へ。」と申して、延べさせ給ひけるを、
「もう二回〔勝負を〕延長なさいませ。」と申し上げて、延長なさったのを、
いま=[副]
ふたたび=[名]
延べ=[動]バ下二「延ぶ」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(助動)道隆・人々から道長へ
給へ=[動]ハ四「給ふ」令/給ふ=尊敬語(補)道隆・人々から道長へ
と=[格助]引用
申し=[動]サ四「申す」用/申す=謙譲語(本)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
延べ=[動]バ下二「延ぶ」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(助動)語り手から道隆へ
給ひ=[動]ハ四「給ふ」用/給ふ=尊敬語(補)語り手から道隆へ
ける=[助動]過去「けり」体
を=[格助]動作の対象
ふたたび=[名]
延べ=[動]バ下二「延ぶ」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(助動)道隆・人々から道長へ
給へ=[動]ハ四「給ふ」令/給ふ=尊敬語(補)道隆・人々から道長へ
と=[格助]引用
申し=[動]サ四「申す」用/申す=謙譲語(本)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
延べ=[動]バ下二「延ぶ」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(助動)語り手から道隆へ
給ひ=[動]ハ四「給ふ」用/給ふ=尊敬語(補)語り手から道隆へ
ける=[助動]過去「けり」体
を=[格助]動作の対象
⑦ やすからずおぼしなりて、「さらば、延べさせ給へ。」と仰せられて、
〔道長は〕不満にお思いになって、「それならば、延長なさいませ。」とおっしゃって、
やすから=[形]ク「やすし」未
ず=[助動]打消「ず」用
おぼしなり=[動]ラ四「おぼしなる」用/おぼしなる=尊敬語(本)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
さらば=[接]
延べ=[動]バ下二「延ぶ」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(補)道長から道隆へ
給へ=[動]ハ四「給ふ」令/給ふ=尊敬語(補)道長から道隆へ
と=[格助]引用
仰せ=[動]サ下二「仰す」未/仰す=尊敬語(本)語り手から道長へ
られ=[助動]尊敬「らる」用/らる=尊敬語(助動)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
ず=[助動]打消「ず」用
おぼしなり=[動]ラ四「おぼしなる」用/おぼしなる=尊敬語(本)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
さらば=[接]
延べ=[動]バ下二「延ぶ」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(補)道長から道隆へ
給へ=[動]ハ四「給ふ」令/給ふ=尊敬語(補)道長から道隆へ
と=[格助]引用
仰せ=[動]サ下二「仰す」未/仰す=尊敬語(本)語り手から道長へ
られ=[助動]尊敬「らる」用/らる=尊敬語(助動)語り手から道長へ
て=[接助]単純な接続
⑧ また射させ給ふとて、仰せらるるやう、
再び矢を射なさるということで、おっしゃったことに、
また=[副]
射=[動]ヤ上一「射る」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(助動)語り手から道長へ
給ふ=[動]ハ四「給ふ」止/給ふ=尊敬語(補)語り手から道長へ
とて=[格助]動機・目的
仰せ=[動]サ下二「仰す」未/仰す=尊敬語(本)語り手から道長へ
らるる=[助動]尊敬「らる」体/らる=尊敬語(助動)語り手から道長へ
やう=[名]
射=[動]ヤ上一「射る」未
させ=[助動]尊敬「さす」用/さす=尊敬語(助動)語り手から道長へ
給ふ=[動]ハ四「給ふ」止/給ふ=尊敬語(補)語り手から道長へ
とて=[格助]動機・目的
仰せ=[動]サ下二「仰す」未/仰す=尊敬語(本)語り手から道長へ
らるる=[助動]尊敬「らる」体/らる=尊敬語(助動)語り手から道長へ
やう=[名]
⑨ 「道長が家より、帝・后立ち給ふべきものならば、この矢当たれ。」と仰せらるるに、
「〔この私〕道長の家から、天皇や皇后がお立ちになるはずならば、この矢よ、当たれ。」とおっしゃると、
道長=[名]
が=[格助]連体修飾格
家=[名]
より=[格助]動作の起点
帝=[名]
后=[名]
立ち=[動]タ四「立つ」用
給ふ=[動]ハ四「給ふ」止/給ふ=尊敬語(補)道長から帝・后へ
べき=[助動]当然「べし」体
もの=[名]
なら=[助動]断定「なり」未
ば=[接助]順接の仮定条件
この=[連語]
矢=[名]
当たれ=[動]ラ四「当たる」令
と=[接助]引用
仰せ=[動]サ下二「仰す」未/仰す=尊敬語(本)語り手から道長へ
らるる=[助動]尊敬「らる」体/らる=尊敬語(助動)語り手から道長へ
に=[接助]単純な接続
が=[格助]連体修飾格
家=[名]
より=[格助]動作の起点
帝=[名]
后=[名]
立ち=[動]タ四「立つ」用
給ふ=[動]ハ四「給ふ」止/給ふ=尊敬語(補)道長から帝・后へ
べき=[助動]当然「べし」体
もの=[名]
なら=[助動]断定「なり」未
ば=[接助]順接の仮定条件
この=[連語]
矢=[名]
当たれ=[動]ラ四「当たる」令
と=[接助]引用
仰せ=[動]サ下二「仰す」未/仰す=尊敬語(本)語り手から道長へ
らるる=[助動]尊敬「らる」体/らる=尊敬語(助動)語り手から道長へ
に=[接助]単純な接続
⑩ 同じものを、中心には当たるものかは。
同じ当たるにしても、なんと中心に当たるではないか。
同じ=[形]シク「同じ」体
もの=[名]
を=[格助]動作の対象
中心=[名]
に=[格助]場所
は=[係助]区別
当たる=[動]ラ四「当たる」体
ものかは=[終助]強い感動
もの=[名]
を=[格助]動作の対象
中心=[名]
に=[格助]場所
は=[係助]区別
当たる=[動]ラ四「当たる」体
ものかは=[終助]強い感動