【原文・現代語訳】児のそら寝(『宇治拾遺物語』より)
(1)今は昔、比叡の山に児ありけり。…… 原文 ①今は昔、比叡の山に児ありけり。②僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせん。」と言ひけるを、この児、心よせに聞きけり。③さりとて、し出ださんを待ちて寝ざらんも、わろかりなんと思ひて、④片...
(2)この児、さだめておどろかさんずらんと、……
① この児、さだめておどろかさんずらんと、待ちゐたるに、
この児は、きっと〔僧たちが自分を〕起こしてくれるだろうと、待っていたところ、
この=[連語]
児=[名]
さだめて=[副]
おどろかさ=[動]サ四「おどろかす」未
んず=[助動]推量「むず」止
らん=[助動]現在推量「らむ」止
と=[格助]引用
待ちゐ=[動]ワ上一「待ちゐる」用
たる=[助動]存続「たり」体
に=[接助]単純な接続
児=[名]
さだめて=[副]
おどろかさ=[動]サ四「おどろかす」未
んず=[助動]推量「むず」止
らん=[助動]現在推量「らむ」止
と=[格助]引用
待ちゐ=[動]ワ上一「待ちゐる」用
たる=[助動]存続「たり」体
に=[接助]単純な接続
② 僧の、「もの申し候はん。おどろかせたまへ。」と言ふを、
僧が、「もしもし。目をお覚ましください。」と言うのを、
僧=[名]
の=[格助]主格
もの=[名]
申し=[動]サ四「申し」用
候は=[動]サ四「候ふ」未
ん=[助動]意志「む」止
おどろか=[動]カ四「おどろく」未
せ=[助動]尊敬「す」用
たまへ=[動]ハ四「たまふ」令
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
を=[格助]動作の対象
の=[格助]主格
もの=[名]
申し=[動]サ四「申し」用
候は=[動]サ四「候ふ」未
ん=[助動]意志「む」止
おどろか=[動]カ四「おどろく」未
せ=[助動]尊敬「す」用
たまへ=[動]ハ四「たまふ」令
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
を=[格助]動作の対象
③ うれしとは思へども、ただ一度にいらへんも、待ちけるかともぞ思ふとて、
〔児は〕うれしいとは思うけれども、ただ一度で返事をするのも、〔児がぼたもちを〕待っていたと思うといけないと思って、
うれし=[形]シク「うれし」止
と=[格助]引用
は=[係助]区別
思へ=[動]ハ四「思ふ」已
ども=[接助]逆接の確定条件
ただ=[副]
一度=[名]
に=[格助]手段
いらへ=[動]ハ下二「いらふ」未
ん=[助動]婉曲「む」体
も=[係助]並列
待ち=[動]タ四「待つ」用
ける=[助動]過去「けり」体
か=[係助]疑問
と=[格助]引用
も=[係助]強意
ぞ=[係助]強意(結びの語:思ふ)
思ふ=[動]ハ四「思ふ」体
とて=[格助]引用
と=[格助]引用
は=[係助]区別
思へ=[動]ハ四「思ふ」已
ども=[接助]逆接の確定条件
ただ=[副]
一度=[名]
に=[格助]手段
いらへ=[動]ハ下二「いらふ」未
ん=[助動]婉曲「む」体
も=[係助]並列
待ち=[動]タ四「待つ」用
ける=[助動]過去「けり」体
か=[係助]疑問
と=[格助]引用
も=[係助]強意
ぞ=[係助]強意(結びの語:思ふ)
思ふ=[動]ハ四「思ふ」体
とて=[格助]引用
④ もう一声呼ばれてから返事をしようと、我慢して寝ているうちに、
いま一声呼ばれていらへんと、念じて寝たるほどに、
いま=[副]
一声=[名]
呼ば=[動]バ四「呼ぶ」未
れ=[助動]受身「る」用
て=[接助]単純な接続
いらへ=[動]ハ下二「いらふ」未
ん=[助動]意志「む」止
と=[格助]引用
念じ=[動]サ変「念ず」用
て=[接助]単純な接続
寝=[動]ナ下二「寝る」用
たる=[助動]存続「たり」体
ほど=[名]
に=[格助]時
一声=[名]
呼ば=[動]バ四「呼ぶ」未
れ=[助動]受身「る」用
て=[接助]単純な接続
いらへ=[動]ハ下二「いらふ」未
ん=[助動]意志「む」止
と=[格助]引用
念じ=[動]サ変「念ず」用
て=[接助]単純な接続
寝=[動]ナ下二「寝る」用
たる=[助動]存続「たり」体
ほど=[名]
に=[格助]時
⑤ 「や、な起こしたてまつりそ。をさなき人は、寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしければ、
〔僧の〕「おい、お起こし申し上げるな。幼い人(=児)は、寝入りなさってしまった。」と言う声がしたので、
や=[感動]
な=[副]
起こし=[動]サ四「起こす」用
たてまつり=[動]ラ四「たてまつる」用
そ=[終助]禁止
をさなき=[形]ク「をさなし」体
人=[名]
は=[係助]主題の提示
寝入り=[動]ラ四「寝入る」用
たまひ=[動]ハ四「たまふ」用
に=[助動]完了「ぬ」用
けり=[助動]過去「けり」止
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
声=[名]
の=[格助]主格
し=[動]サ変「す」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因理由
な=[副]
起こし=[動]サ四「起こす」用
たてまつり=[動]ラ四「たてまつる」用
そ=[終助]禁止
をさなき=[形]ク「をさなし」体
人=[名]
は=[係助]主題の提示
寝入り=[動]ラ四「寝入る」用
たまひ=[動]ハ四「たまふ」用
に=[助動]完了「ぬ」用
けり=[助動]過去「けり」止
と=[格助]引用
言ふ=[動]ハ四「言ふ」体
声=[名]
の=[格助]主格
し=[動]サ変「す」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因理由
⑥ あな、わびしと思ひて、いま一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、
〔児は〕ああ、困ったことだと思って、もう一度起こしてくれよと、
あな=[感動]
わびし=[形]シク「わびし」止
と=[格助]引用
思ひ=[動]ハ四「思ふ」用
て=[接助]単純な接続
いま=[副]
一度=[名]
起こせ=[動]サ四「起こす」令
かし=[終助]念押し
と=[格助]引用
思ひ寝=[名]
に=[格助]状態・状況
聞け=[動]カ四「聞く」已
ば=[接助]偶然条件
わびし=[形]シク「わびし」止
と=[格助]引用
思ひ=[動]ハ四「思ふ」用
て=[接助]単純な接続
いま=[副]
一度=[名]
起こせ=[動]サ四「起こす」令
かし=[終助]念押し
と=[格助]引用
思ひ寝=[名]
に=[格助]状態・状況
聞け=[動]カ四「聞く」已
ば=[接助]偶然条件
⑦ ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、
思いながら横になって聞くと、むしゃむしゃと、ただひたすら〔僧たちがぼたもちを〕食べる音がしたので、
ひしひしと=[副]
ただ=[副]
食ひ=[動]ハ四「食ふ」用
に=[格助]強意
食ふ=[動]ハ四「食ふ」体
音=[名]
の=[格助]主格
し=[動]サ変「す」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因理由
ただ=[副]
食ひ=[動]ハ四「食ふ」用
に=[格助]強意
食ふ=[動]ハ四「食ふ」体
音=[名]
の=[格助]主格
し=[動]サ変「す」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因理由
⑧ ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
〔児は〕どうしようもなくて、ずっとあとになって、「はい。」と返事をしてしまったので、僧たちは笑うとがこの上ない。
ずちなく=[形]ク「ずちなし」用
て=[接助]単純な接続
無期=[名]
の=[格助]連体修飾格
のち=[名]
に=[格助]時
えい=[感動]
と=[接助]引用
いらへ=[動]ハ下二「いらふ」用
たり=[助動]完了「たり」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因理由
僧たち=[名]
笑ふ=[動]ハ四「笑ふ」体
こと=[名]
限りなし=[形]ク「限りなし」止
て=[接助]単純な接続
無期=[名]
の=[格助]連体修飾格
のち=[名]
に=[格助]時
えい=[感動]
と=[接助]引用
いらへ=[動]ハ下二「いらふ」用
たり=[助動]完了「たり」用
けれ=[助動]過去「けり」已
ば=[接助]原因理由
僧たち=[名]
笑ふ=[動]ハ四「笑ふ」体
こと=[名]
限りなし=[形]ク「限りなし」止