【原文・現代語訳】旅立ち(『おくのほそ道』)【中学国語】
(1)月日は百代の過客にして、…… 原文 ①月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。②舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして、旅を栖とす。③古人も多く旅に死せるあり。 現代語訳 ①月日は永遠にとどまるこ...
(2)予も、いずれの年よりか、……
① 予も、いづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ[1]、
私も、いつの年からか、ちぎれ雲を吹き漂わせる風に誘われるように、あてもなく旅をしたい気持ちがおさえられず、海辺をさすらい、
[1] 海浜にさすらへ=『笈の小文』で鳴海、須磨、明石などの海辺を旅したことをさす。
予も=(1)の③「古人も」に対応している
② 去年の秋、江上の破屋[2]に蜘蛛の古巣を払ひて、やや年も暮れ、
去年の秋、隅田川のほとりのあばら家に〔戻って〕蜘蛛の古い巣を払って〔住んでいるうちに〕、やがて年も暮れ、
[2] 江上の破屋=ここでは芭蕉庵のこと。
③ 春立てる霞の空に、白河の関[3]越えんと、
新春になって霞がかっている空を見ると、白河の関所を越えようと、
[3] 白河の関=現在の福島県白河市にあった関所。東北地方への入り口にあたる。
春立てる霞の空に=「春立てる」(立春)と「立てる霞」(霞が立ち込める)をかけている
④ そぞろ神[4]のものにつきて心を狂はせ、道祖神[5]の招きにあひて取るもの手につかず、
そぞろ神が体についたようで狂おしくなり、道祖神に〔旅に〕誘われて取るものも手につかず、
[4] そぞろ神=人の心を誘惑して落ち着きをなくさせる神をさす。芭蕉の造語。
[5] 道祖神=旅の安全を守る神。
[5] 道祖神=旅の安全を守る神。
対句=「そぞろ神のものにつきて心を狂はせ」と「道祖神の招きにあひて取るもの手につかず」
⑤ ももひきの破れをつづり、笠の緒つけかへて、三里[6]に灸据うるより、
ももひきの破れをつくろい、笠のひもをつけかえて、三里に灸を据えるやいなや、
[6] 三里=膝がしらの下の外側にあるくぼみで、ここに灸を据えると健脚になる。
対句=「ももひきの破れをつづり」と「笠の緒つけかへて」
⑥ 松島[7]の月まづ心にかかりて、住める方は人に譲り、杉風[8]が別墅に移るに、
松島の月がまず気にかかって、〔これまで〕住んでいた家は人に譲り、杉風の別宅に移るときに〔次のように詠んだ〕、
[7] 松島=現在の宮城県松島湾内の名勝地。
[8] 杉風=杉山杉風。芭蕉の門人。
[8] 杉風=杉山杉風。芭蕉の門人。
⑦ 草の戸も住み替はる代ぞ雛の家
こんなに粗末な家も、住む人が変わって私のような世捨て人が出たあとは、雛人形が飾られるような家になることだろう。
季語=雛 季節=春
切れ字=ぞ
切れ字=ぞ
⑧ 表八句[9]を庵[10]の柱に掛けおく。
〔この句を発句とした〕表八句を庵の柱にかけておいた。
[9] 表八句=百韻の連句を書くときに、第一紙の表に書く八句のこと。
[10] 庵=世捨て人などが住む粗末な家。
[10] 庵=世捨て人などが住む粗末な家。